霊天和尚の雨乞の話


霊天和尚雨乞の法 (本堂清 画)

享保年間というから今から約三百年ほど前になる。その年この地方では日照りが長く続き、出穂を前にして人々は非常に困っていた。既に田畑はからからに乾いて作物は総て枯れんばかりだったからだ。このままでは近郷近住の人々は皆飢えてしまうだろう。

当山でも時の住職霊天和尚を中心として「雨乞の法」が熱心に行われていた。周辺の名主をはじめ、たくさんの人々がお堂の外で熱心に慈雨を祈っていた。 修法は七日七夜続けられたが、雨は降る気配すらなかった。天は地上のすべてを乾燥させるとばかりに熱風を送り込んできた。

今日は結願の日だ。霊天和尚は心身共に疲れ果てていたが、修法は渾身の力を振り絞って続けられた。

ちょうど辰の五ツ刻(日没時)頃だった。急に辺りが暗くなりお寺の木が大きく揺れ動いて一点にわかに曇ったと思うと、天を裂くような雷音が轟き、カアッと口を開いた龍が霊天和尚の頭上に現れ、鋭い爪を出しながら襲いかかってきた。

和尚はとっさに立ち上がり、大声で「待ちかねしぞ神龍!」と叫び、持っていた水晶の大念珠を投げつけた。念珠は糸を離れ四方に散り、念珠の母珠は見事に龍が持っていた宝珠に当たった。

その瞬間、電光が走り、龍の姿はみるみるうちに黒い雷雲の中に消えていき、そして滝のような雨が空から降りそそいだ。人々は嬉しさのあまり雨の中を踊り回った。枯れかかっていた作物は生き生きと蘇ったのだ。

当山には今でも、大念珠の母珠と龍の爪が漆の小箱に納められ、寺宝として代々伝えられている。



龍の爪

 



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